三原山トレッキングについて
伊豆大島は天候の予測が難しい
三原山といえば、私ぐらいの世代には、1986年の噴火が今も生々しく記憶に残っています。
あのぅ……これって、ハワイじゃないよね……観光地で名高い伊豆大島だよね (@@;)……と、毎日のように新聞やニュースに釘付けになり、島はどうなるのかしらと固唾を呑んで見守っていたものです。
↓ 私が地学に興味をもつきっかけになった自然現象の一つ
伊豆大島に来たら、どれほど天気が悪くても、「三原山だけは行きたい」という人が後を絶たず、タクシーの運転手さんの話によると、雨天でもカッパを着て三原山トレッキングする人が多いそうです。
まあ、気持ちは分かります。
私も台風接近の前日で、どうしようか非常に迷いました。
山頂には霧がかかり、良好なコンディションでないのは一目瞭然だったからです。
しかも台風がそこまで迫っており、判断を誤れば、とんでもない状況に陥る危険性が大でした。
一方、サンセットパームラインのある西側海岸は強い日が射し、時折晴れ間ものぞくほど。
このまま晴れ上がるのではないかと期待を抱かせるような空模様で、こうした場所による天気の違いが、伊豆大島の気候の予測が難しい点でもあります。
霧と雨雲の三原山
最終的に「行こう」と決めたのは、雲の動きと公共機関でした。
西海岸に関しては、時々、雲がかかるけど、すっかり太陽が隠れるほどではない。
山頂も、厚い雲がかかっているが、空全体が覆われる感じではない。
また、大島バスやタクシーも三原山に向けて運行していたので、最終バスの時刻 15時30分(路線バス時刻表で確認のこと)か、一本早い 14時30分までに戻れば何とかなる、と判断した次第です。
↓ 最終的にはこのような進路になりましたが、台風20号が西側に進路を変えて、さらに影響が強まる恐れもありました。
結果……
山頂展望台の周辺はともかく、火口に関しては、強風が吹き荒れ、霧で何も見えない、雲隠れ才蔵状態。
どこに火口があるのさえ、全く分かりませんでした。
山頂にだけ傘のように霧がかかっているのがよく分かります。
これが強風に乗って、霧吹きみたいに吹き下ろすのです。
天然のミストシャワーと言えば聞こえがいいですが、決して笑える状態ではありません。
カルデラ底部の登山道の辺りは、時々、青空も覗くほどだったのですが、山頂に近づくにつれ、霧に巻かれる状態。
台風による強風と湿気の影響です。
本当はこういう三原山が見られたはずなのですが・・
三原山登山の注意点
トレッキングのルートについて
三原山トレッキングと一口に言っても、四つのルートがあります。
・ 初心者向けの火口めぐり
大島バス、もしくは車で、山頂展望台にアクセス。整備された平坦な登山道を歩いて、火口をめぐり、同じ展望台に戻ってくる。
・ 大島温泉ホテルルート
大島バス、もしくは車で、山頂展望台にアクセス。火口をめぐった後、三原山の北側を降りて、大島温泉ホテルに抜ける。
・ テキサスコース
山頂展望台 → 火口めぐり → 三原山の北東部を横断して、大島公園方面に抜ける。
・ 月と砂漠ライン
広大な裏砂漠を横断して、大島一周道路の東側に抜ける。
写真は『伊豆大島NAVI 三原山トレッキング』より
地図を見るだけなら、どのルートもさほど難しく感じませんが、最大の問題は帰りの移動が難しいことです。
大島バスが定期的に運行する一般的な火口めぐりはともかく、『月と砂漠ライン』や『テキサスコース』は、下手すると、宿に帰れないという事態になりかねません。
大島温泉ホテルに抜けるにしても、ホテルに宿泊するのでなければ、そこからどうやって移動するか……という話ですね。
登山は、早朝に登り始めて、昼過ぎには下山するのが基本です。
火口を見に行くだけならいいですが、長距離を歩くなら、決して昼過ぎから登り始めてはいけません。
理由は、山の中は、町中よりも早く暗くなるからです。
日没時刻が18時でも、山の中は木陰や谷間の影響で、太陽の光がすぐに遮られてしまいます。
明るく見えるのは山頂だけ。
麓に向かうほど、日も陰って、視界も悪くなります。
傾斜の激しい下り坂で、石ころの多い登山道だと、足元がよく見えず、転倒する恐れもあります。
登山するなら、早く登って、早く下りましょう。
登山開始が一時間早まるだけでも、帰りの状況は大きく違いますよ。
ちなみに、天気と登山客の数によっては、山頂展望台の食堂も早く閉まることがあります。
私たちが訪れた時も、調理は1時半で終了。
「今日はお客さんが少ないから、早めに火を落としたんですよ~」と。
それも仕方ないの話です。
だから、何でも施設や公共機関を当てにして予定を組んだらダメですよ (。・ω・。)
一般的な火口めぐり(初心者向け)とゴジラ岩
頂上の展望台から火口に至る道はきれいに舗装され、直線距離も約1.3㎞(火口展望台から山頂展望台まで)。
登山道としては初級レベルです。
カルデラ底面も、ほぼ平坦で、幼児でも楽々歩けます。
ただ、火口に向かう急斜面で、つづら折りの坂道が繰り返し、これが結構、心臓破り。
私も何度も2000メートル級に山に登っていますが、かなり胸にきます。高血圧や心臓病の既往のある中高年者は要注意。
休み休み、行きましょう。
また、カルデラ底に日陰となる高い木はなく、直射日光がそのまま照りつけるので、夏の晴天時は要注意です。(お子さんは帽子必携)
入り口のショップで十分に飲料水を確保してお出かけ下さい。
山頂にある、有名なゴジラ岩。
1989年の噴火時に出来たものだそう。ゴジラの横顔に似ていることから、ゴジラ岩と呼ばれ、ゴジラ・クッキーとか、ゴジラ饅頭みたいな郷土菓子にもなっています。
つづら折りの坂道を登ったところにあり、晴天なら見晴らしがいいのですが、私たちが登った時は強風が吹き荒れ、観光どころではありませんでした。
火口の近くまで来ると、風もやや収まり、霧の向こうで太陽が燦々と照っているのが分かったので、そのまま前に進んだのですが、立ってられないほどの強風は人生で二度目でした(一度目は姶良湾で経験)
しかし、この辺りは、平常時でも風がきついのかもしれないですね。
雨天のリスクと移動手段について
その他のルートは回っていないので、詳しいコメントはできませんが、いずれにせよ問題になるのは『移動』です。
行くだけなら何時でも行けるけど、帰りの手段がない。
特に島の東側(裏砂漠が広がる)は、これといった集落もなく、バスも一日3本みたいな状況です。
大島公園に近いテキサスコースも、Google Mapで見る限り、山中なので、帰りの手段のないままお出かけするのはお勧めしません。
伊豆大島ではタクシーを確保するのも難しいからです(都会みたいに電話一本ですぐ来てくれるわけではない)。
運賃も高いです。
運転手さんの話では、雨天でも雨合羽を着用して行く人があるそうですが、夏の盛りならともかく、春先、晩秋など、平均気温の低い日は避けた方がいいと思います。
特に、子ども連れ。
話によると、霧の濃い時は、霧の中を歩いただけで、衣類も何もかも、ずくずくになるそうです。
雨のように、傘を差せばしのげるものではありません。
今回、私たち一家が霧の中で火口に出かけたのは、連日、猛暑だったからです。
絶えず風が吹き荒れて、運転手さんが仰るような「霧の中に居るだけで、濡れ鼠」という状態でもありませんでした。
また、三原山周辺は、よほどの晴天でもない限り、天気予報が難しいのも本当だと思います。
実際、私たちがタクシーで三原山に上がった時も、山の北側の新火口展望台の周辺はかなり雨が降っていたのに、そこを抜けて、山頂に近づくと、ぱーっと日が射してきて、ベテラン運転手さんでさえ、「おかしな天気だ、こんなの初めてだ」と仰るくらいでしたから。
逆に、今まで日が差していたのに、あっという間に雨模様になることも考えられます。
私も欧州では2000メートル級の山に何度も登って、豪雨、強風など、怖い思いもしています。
しかし、そこまで危険を感じなかったのは、『足(マイカー)があること』。(登山専用駐車場に停めている)
山が人気リゾートで、山岳救助隊も常駐しており、麓まで下りれば夜遅くまでパブや土産物屋が開いていること。
夜中でもタクシーが呼べる、等々。
便利な環境だったからです。
しかし、伊豆大島の場合、公共バスもタクシーも乏しく、下手すれば、人気のない東側に迷い込み、夜に海岸にぽつんと取り残される恐れがあります。
大島公園や大島温泉ホテルにアクセスしても、周囲に何があるわけでもなく、町中の商業施設も午後五時~六時には次々にシャッターを下ろしてしまうので、簡単に助けを求めるわけにもいかないでしょう。
見た目は小さな島ですが、足(車)のない旅行者には決して甘い環境ではないので、登山計画を立てる時は、十分に余裕をもって。
悪天候なら潔く諦める気持ちで、旅行をお楽しみ下さい。
脅しではなく、一歩間違えば厳しいですよ。(旅慣れた私が言うのだから、ホントです。民泊のお兄さんも同意してた)
三原山を楽しむ為の三箇条
三原山に限らず、登山の原則です。どんな小さな山でも昼過ぎてから登るものではないです。(よほどインフラの整った観光登山でない限りは)
2. 三原山の天気は変わりやすいと心得る
私たちは運がよかっただけ。カルデラ底で荒天に巻かれる危険性もありました。
「せっかくここまで来たのだから」と強行しないこと。
山頂展望台から遠目に溶岩が見られるだけでも良しとしましょう。
3. 帰りの足を確保してから出かけること
バスも、タクシーも、ほんとに無いです。乗れたらラッキー。乗り過ごしたら、泣くしかないです。
写真で楽しむ 三原山
三原山といえば、やはり溶岩。
噂に聞くだけで、実際はどんなものか、素人には想像もつかない伝説のマターです。
撮影時のコンディションが悪いので、画像にエフェクトかけて、やっとこんな感じ。
山頂から溶岩があふれ出た様子がよく分かります。
冷えて固まった溶岩はゴツゴツの穴だらけ。踏みしめると、独特の、クシュクシュっという音がして、不思議な感覚です。
こんな死の岩みたいな隙間にも植物は生い茂るんですね。後述の、火山博物館のムービーでも取り上げていましたが、この植物(名前を忘れた・・!)の根っこは数メートルの長さがあり、分厚い溶岩を突き抜けて、水分を含んだ地下にまで到達しているんですね。根が地下に達するまでに枯れそうなイメージですが、生命力が強いのでしょう。こうした植物の力により、何十年後か何百年後にかは豊かな森林になるそうです。ブラボー伊豆大島。
溶岩は中身がスカスカなので、こんな大きな塊もラクラク持ち上げることができます。
友人・家族への自慢話にいかがでしょうか。
火口近くの案内板。ここでルートを間違えると、まったく意図せぬ方向に行ってしまうので、悪天候の時は気を付けて。
私たちの時は、視界数10メートルぐらいで、確認が大変でした。
溶岩流も避けて通る、霊験あらたか三原神社(大島ジオパーク・データミュージアム)。まるでUnsinkable Molly(不沈のモリー・ブラウン。タイタニックの生存者で知られる)のような光景に息を呑むはず。
これ本当に、溶岩流がほこらの前で止まったんですよ。
ほこら全体がきれいに残っていて、高熱による破損もなし。
私も「沈みませんように」とお願いしてきました。災厄防除だけでなく、会社を潰したくない人、競争社会で生き残りたい人、上には行けずとも下には落ちたくない人、今の時代におすすめの神社です。
本来、鳥居の向こうには富士山が見えるのですが、霧に囲まれて摩周湖状態でした。
私も裏砂漠に行ってみたかったですが、時間切れ+台風。残念・・!
伊豆大島 火山博物館 & 優しいスタッフ
最後に、火山の全てがぎゅっと詰まった『伊豆大島 火山博物館』に参りましょう。
午後五時過ぎには商店のシャッターがしまっちゃう、
平日なのに飲食店が休業しちゃう、
旅行者に優しいのか厳しいのか分からない元町港周辺で、ここだけがドドーんと壮麗。
『伊豆大島のホワイトハウス』と呼びたくなるような立派な門構えです。
台風が間近に迫り、風雲急を告げるような空模様が迫力満点 (^_^)
ローランド・エメリッヒのディザスター・ムービーみたい。
私たちが訪れた時は、台風の影響でキャンセルが相次ぎ、お客さんはたったの4人。
そう、うちの一家だけ!!
完全貸し切り状態にもかかわらず、職員も非常に親切で、火山ムービーも、私たち4人の為にわざわざ上映して下さいました。
こんなVIP待遇は生まれて初めて!
シアターの座席も非常に快適でした。
ちなみに、火山ムービーは、近年、刷新されたそうで、NHKスペシャルみたいなクオリティ。
ドローンで撮影したのか、上空からの映像も迫力満点で、音響も極上。
惜しむらくは、英語字幕がないことで、これが入れば、外国人観光客も非常に感銘を受けると思います。
フロアの展示物も気合いが入っていて、こちらは英語の解説もあります。
記念撮影もして下さった上に、台風の影響でどこも休業で、「夕食を食べる場所がないんですぅ~!」と涙目で訴える私に『元町 寿し光』を紹介して下さったご親切。「今なら電話が通じるから。大丈夫。あそこはお座敷も広いし、きっと営業してるわよ」と励ましの言葉まで頂戴して、電話口で「お席、空いてますよ~」という言葉が聞けた時には、「救・わ・れ・た」と三原神社に祈りを捧げたい気持ちでした。
しかも、電話番号の検索がスマホではなく、電話帳というのも感動しましたわ。
そりゃそうですよね、なんだかんだで災害に強いのは紙の印刷物ですから。さすが伊豆大島・火山博物館。
ちなみに『寿し光』は、海に面したお座敷も広くて、快適で、寿司、丼、サラダ、汁物、揚げ物、とバラエティに富んでいます。
スタッフの皆さんも親切で、家族で楽しめました(^^)
地層のドーナツ:地層切断面
おまけ。
島の南西部に位置する地層切断面(大島観光NAVI)。
元町港から波浮港に向かう、大島バス『波浮港ライン』の車内からも綺麗に見渡すことができます。
小さな動画では「ふ~ん」ぐらいにしか思いませんが、実際にその場に行ったら感動しますよ。
さあ、今すぐ、伊豆大島に行こう!